診療歳時記

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診療歳時記

診療歳時記について・・・
診療歳時記は、当院院長が俳句同人誌『山茶花』に毎月連載していた小文です。
さまざまな病気や医療にかかわることを題材にして、一般の方に分かりやすく解説したり、医療者側からの本音をお話したりしています。
こうした活動が医療の啓蒙の一助になればと連載を続けておりますが、ホームページのこのページには過去に連載されたお話をそのまま逐次掲載していく予定です。
どうぞお楽しみに。

このホームページでおなじみの診療歳時記が本になりました。

全国の一般書店店頭で、もし店頭にない場合はご注文いただければ、購入できます。本の内容は、ふだん診察室で皆様にお話ししているようなことを中心に、さまざまな病気について書いています。本の題名は「俳句で綴る家庭の医学―診療歳時記」で、文芸の出版で有名な飯塚書店刊です。医院窓口に見本を置いておりますので、ご覧になってみてください。詳しくはhttp://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7522-2059-6.htmlをご覧ください。 医院窓口でも本をお頒けできます。(ただし、部数に限りがあります。) なお、山内繭彦は当院院長のペンネーム(俳号)です。

診療歳時記・サプリメント

正月と言いましてもコンビニは仕事をしていますし、二日になれば大手のスーパーやデパートも営業を始めますので、昔のような正月らしさは感じられなくなってきています。おせち料理もたくさん作る必要はなくなりましたし、二日、三日の献立の用意を年末に買い込まなくてもよくなりました。私の幼い頃の正月料理と言えば、一日は雑煮を祝いおせちを食べて、二日の夜は鰤の照り焼き、三日の夜は肉料理だったように思います。今ではそういう家庭の習わしもなくなって、正月の非日常性がすっかり影を潜めてしまいました。経済効果を重んじた結果、古くから伝わる文化が淘汰された好例なのかもしれません。貧しくとも楽しかった正月はもう私たちの前に再び戻ってくることはないでしょう。経済と効率ばかりを優先する社会について、ちょっと立ち止まって考えてみる時が来ているのかもしれません。

喰積のほかにいささか鍋の物
虚子
温顔のたとへやうなき年酒かな
若沙
初笑一家揃へばおのづから
繭彦

今回はサプリメントのお話をしてみようと思います。皆様ご自身や皆様の周りの人でサプリメントを愛用されている方はきっとたくさんいらっしゃるだろうと思います。サプリメントという言葉に馴染みがない方もいらっしゃるかもしれませんが、健康食品と申しあげるとお分かりになるでしょう。健康に良いという何がしかの理由から販売されている物のうち、医薬品として認められている物以外の物がサプリメントの範疇に入ります。

このサプリメントの中には、法的なよりどころを持った物もあり、それらは「保健機能食品」と「特別用途食品」と呼ばれる物で、乳幼児、妊産婦や高齢者などの栄養補助となり、体調を整えるのに役に立つと科学的に証明されている食品群です。しかしながら、その効果についても医薬品と違って明確な治験やその統計が取られたわけではありません。常識的に考えればこうしたサプリメントも摂り過ぎれば体によくないであろうし、人によってはアレルギーが起ったり、体に合わなかったりすることもありうると思われます。

もともとこうしたサプリメントはアメリカでたくさん使われていました。日本国内ではさまざまの規制があって、それほど大々的には使用されていなかったのですが、規制緩和の流れの中で最近では最も成長している産業となっています。健康食品という名前のとおりあくまで食品ですので、その有効性について責任はありません。と同時に有効性を宣伝することは許されていません。皆様の周りでも、健康食品を食べるとリウマチがよくなったとか喘息が治ったとかいう広告があると思います。でもよくよく見ると、そこに書かれているのはその食品を食べてそれらの病気がよくなったと言う誰かの体験談が書かれているに過ぎないのです。販売業者はその健康食品がそれらの病気に効くとはけっして言ってはいません。それが味噌なのです。その体験談もじつは捏造であることもあるようですが、百歩譲って体験談が事実であったとしてもその食品がそれらの病気に効果があるかどうかはいささか疑問があります。

私たち医師が学ぶ薬理学の中に偽薬効果という言葉が出てきます。人体に無害な物質、たとえば澱粉の粉末を有効な薬だといって患者に投与すると約三割の人は効果があったと評価するのです。それを偽薬効果と呼んでいます。そういうことを考えると数人の体験例を聞いて、それを持って病気の治療に有効であると考えるのはいささか早計なのではないでしょうか。

テレビのワイドショウで、数人の人を実験台にして食品の効果を判定している番組がありますが、科学的な顔をした茶番と言えるでしょう。科学的な統計を取るにはそんな人数では何も評価できません。番組編成上都合のよいデータだけを集めている可能性もあり、もっとたくさんの人を対象にした実験をすると違った結果が出る可能性もあります。

最近流行のコエンザイムQ10の成分を集めたというサプリメントを飲んでいて体調の異変を訴える人がいたため、そのサプリメントを調べたところ違う成分の物質が検出され、そのうえコエンザイムQ10はまったく入っていなかったと報道されています。食品を元の形のまま食べるのならば、確かに当該の食品を食べていることが判りますが、錠剤やカプセルにされた食品は本当にその成分が含まれているのかどうかもわかりません。もちろん大多数の物は良心的に造られていると信じているのですが・・。

アガリクスという健康食品があります。ブラジル原産の茸、和名ヒメマツタケから取り出された成分として癌に効くと持て囃されていますが、ある有名な食品会社が出していたアガリクスは抗癌効果どころか発癌性があることがわかり、回収になったと聞いています。どうもアガリクスにもいろいろな種類の物があるようで、そのすべてのアガリクスに抗癌効果は期待できないようです。しかし、食品として売られているのですから、厚生省をはじめとする行政の規制はなく、その安全性を誰も確認はしていません。

私どもで診察をしていて、サプリメントの適否を質問されることがしばしばあります。その時私はすべてのサプリメントを否定はしないけれど、まず社会的に信用できるメーカーの物を求めること、実際に服用してみて体に合わないようならば直ちにやめること、法外な値段を求められる物には注意することなどを患者さんに伝えます。値段が高いほどよく効くのではないかという病める者の足元を見たような商法をしばしば経験するからです。そして、そうしたサプリメントに頼るよりも三度の食事をバランスよく摂る事が何よりであることも伝えています。皆様もマスコミや広告に踊らされることなく賢く対応していただきたいと思います。

 

(平成十九年一月)