診療歳時記

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夜尿症

夏が厳しく厚いのは体にこたえてつらいところではありますが、冷夏では農作物に影響が出て困ったことになります。そういう意味では夏は夏らしく暑い方が良いのかもしれません。子供たちは、長い夏休みに普段体験できないさまざまのイベントに参加する機会を持ちます。林間学舎、臨海学校、あるいは家族旅行、地域の子供会のキャンプなどいろいろな楽しい企画が目白押しかもしれません。子供たちは学校で学んでいるのとは違った経験をし、一夏のうちに一回りも二回りも急激に成長してきます。そういうさまざまなイベントも夏は暑いものとして企画されたものが多いかと思います。子供たちに良い体験をしてもらうためにも、やはり夏は夏らしく暑い方がよいように思えます。

天瓜粉吾子の睫毛が蘂となり
狩行
校長のしばらく子供神輿押す
弘美
避暑の子に僧正さまの親しさよ
純也

今回は夜尿症についてお話しようと思いますが、夜尿症というのは「おねしょ」のことです。しかし、医学の世界では夜尿症と「おねしょ」は区別されています。「おねしょ」は六歳未満の子供たちが夜寝ている間におもらしをしてしまうことを指し、この状況は神経や内分泌系の調節機構が未熟であるがゆえに起こってくることですので、決して病気ではなく発達途上の現象として捉えるべきことなのです。それに対して夜尿症と呼ばれる状況は、本来自立排尿が完成する時期である六才以降になっても夜に無意識にもらしてしまう場合を指し、病気を意味する「症」の字をつけて夜尿症と呼び、病気として取り扱うことになります。

では、夜尿症はなぜ起こるのでしょうか。夜尿症の中には、尿崩症と呼ばれるホルモンの異常や糖尿病による多尿、あるいは尿路感染症が原因になるような特別な病状であることもありうるのですが、多くの場合そうした特殊な病気を持っているわけではありません。原因の第一は、尿をためる膀胱が小さくて十分な容量を持たないためにおもらしが起こってくる場合です。もう一つの原因は膀胱としては年齢相応の容量を持っているのに、夜間の尿量が多くて溢れてしまう場合です。このいずれの原因でおもらしをするのかを調べるのは簡単です。患児にオムツをつけて眠らせ、翌朝まで何度かオムツを交換し、それぞれのオムツの尿の重さを量り、さらに翌朝起床時の尿量を測定して一晩のうちに出す尿量を確認すれば、膀胱容量の不足によるものなのか多尿型なのかを診断することができます。ちなみに六~八才で180ml以上、八~十才で200ml以上、十才以上で250ml以上の場合多尿型であると診断します。

一方、それまで夜尿のなかった子供や成人が突然夜尿症を起こしてくることがあります。こうした例はたいてい精神的なストレスが原因となっています。

では夜尿症はどのように治療していけばよいのでしょうか。膀胱の容量が小さいために起こってくる夜尿症は、成長とともに改善するのは自明のところですが、患児に昼間排尿するのをできるだけ我慢させて、膀胱の容量を増大させるように訓練する方法をとることがあります。多尿のために起こる夜尿症では、夕食時に塩分のつよいものは控えさせ、夕食以降の水分の摂取を禁止します。もちろん眠る前には排尿させることを忘れてはなりません。眠っている間体が冷えないようにしてやることも大切です。こうした生活指導が、夜尿症の治療にもっとも大切なことです。精神的なストレスが原因として疑われる場合には、何がストレスになっているのかを周りの者が分析して、それを解除してやることが治療につながります。そしていずれの状況であっても、「焦らない・怒らない・起こさない」という三原則を患児の親に理解させることが大切です。親が焦ったり、子を叱ったりしても事態は改善するわけではありません。それどころかかえって心理的ストレスをかけることになります。起こさないというのは夜間に患児を起こしてトイレに連れて行かないようにしようということです。

この起こさないことがなぜ大切なのかをもう少し詳しく解説してみます。私たち自身を振り返ってみて、個体差もあるでしょうし季節によっても違いますが、昼間の排尿は四五時間我慢できるのが限界でしょう。ところが夜間眠っていると八時間くらい平気で尿をしなくて過ごせます。これは私たちの脳からある種のホルモンが分泌されて、尿を濃くして排尿を減らすように仕組まれているからなのです。このホルモン(抗利尿ホルモン)は睡眠と深い関連を持ち、夜しっかり眠っていると分泌してくるのですが、睡眠が途切れたりすると分泌量が減ってくるのです。ですから、夜眠っている時に起こしてトイレへ連れて行くという癖をつけると、このホルモンの分泌がうまくゆかなくなり、その結果夜尿症は改善しなくなるのです。

たいていの夜尿症はこうした生活指導だけで治療することになりますが、どうしても改善しない場合薬物を使うこともあります。少量の抗うつ剤や抗利尿ホルモンを投与したり、漢方薬を使ったりすることもあります。いずれにしろこのような薬は乱用を慎まなければならぬ薬であることは、誰にでも想像のつくことでしょう。夜尿症は二次性徴の始まる頃には改善することが多い病気ですので、そんなに心配せず見守ってやるべきです。

私は小学校の校医になってはじめて林間学舎や修学旅行前の検診をした時、五年生や六年生の児童に夜尿症の子がたくさんいて驚いたことがあります。小学校高学年でも5~10%くらいの頻度でこの病気があるというデータがありますが、諾えるデータであると思います。あの幕末のヒーロー坂本龍馬も十三・四才ごろまでねしょんべんをしていたと伝えられています。夜尿症があるからといって卑下する必要はありません。おおらかな気持ちで夜尿症がなくなるまで子供たちを見守ってやってほしいものです。

(平成十六年七月)